鹿野学園3年生の本棚

鹿野学園3年生のみんなと本を作ります。その本は紙でできていません。かたくて、おもくて、ひらくのに少し苦労します。その物語はまだみんなの心の中にあって、その指先からこぼれてくるのを待っています。みんなの本ができたら本棚に並べましょう。それはきっと城山のどこかにあります。あの階段を登ってきてね。

*写真は2020年の授業の様子です。


鹿野学園3年生の本棚:開催レポート

2023/01/23 レポート

2016年に始まった鹿野芸術祭は様々なアーティストを迎えながら城下町内の空き家を展示場所にしたり地域との関わりの中で創り上げられてきました。そんななか、2018年より鹿野学園の表鷲科(あらわしか)という授業の中で、3年生を対象にワークショップを実施する機会を得られました。そこから5年、毎年3年生との作品作りやワークショップを行っています。

「眠る町の本」

鹿野は水の底のように静かだ。そんな風に例えた作家がいたような気がします。春になれば桜、夏には蓮、秋には演劇祭と多くの人が訪れイベントも多いこの町ですが、暮らしている人だけが知れる静かな時間があります。人口が減っていることもありますし、日中はまちへ働きに行く人もいるでしょう。観光客のない日中、お堀端にあるカフェしかの心にいると、小春日和のもと城山がしんとそこにあります。光と緑だけがある静寂の時間。じきに子どもたちが下校する午後の時間になると、少しずつ町が動き出す気配がします。城下町の曲がり角で、明日の約束をする子どもたち。新しくできた焼き菓子のお店の窓をそっとのぞいていく女子学生。金管楽器の音は部活の練習でしょうか。どこからともなく、魚を煮付ける匂いがして。そのうちにお堀や石の灯籠に灯りが入ります。

その風景を眺めながら、本が書けそうだ。と思いました。
そう思ったのは初めてではありません。私がセーラー服を着て、あのお城のような給食センターのある鹿野中学校に通っていた時、あの図書室の窓からお堀を見下ろしていた頃にも同じことを思っていました。今年のワークショップは、そうだ、本を作ろう。

「フィールドワーク」

鹿野学園でのワークショップで大切にしているのは「まちあるき」と称するフィールドワークです。グループに分かれ、大体のルートを決め、町のボランティアの方々に見守りをしてもらいながら半日かけて城下町エリアを探索します。今回は、メモと筆記用具を持参してもらいました。見つけたもの、気になるものをこのメモに残してね。そう説明してスタートです。

私が参加したグループは、見つけるのが得意な子がたくさんいました。まず、学園の近くで栽培されている生姜の数に驚き、これを売ったら全部でいくらくらいになるかな。っていう話に盛り上がり、その後もいろんなところで立ち止まり、たくさんの花や草を拾って、途中で麦わら帽子を拾ってかぶったりしていると、今度は水筒をなくしたようです。戻ろうか、戻らまいか。そんなことをしていると、他のグループと合流しました。あまりにも天気がよかったので、坂になった草っ原でゴロゴロと転がったりもしました。みんないい表情だなあ。いっぱい歩いてお腹すいたなあ。さあ、拾い集めた言葉を持って教室に帰りましょう。

「物語をつくる」

本の内容である物語には私があらかじめ用意した「いつ、だれが、なにを、どうした」のキーワードにフィールドワークで集めた言葉たちや自身の体験を加えながら組み合わせていきます。

例えば「白亜紀に気高木工が秘密基地を売る」とか「ひよこのぴいちゃんが上町の新しい家でおやつを食べる」「猫がきた日おじいさんが宮本リサイクルで牛を買ってくる」などなど。楽しい文脈ができました。

「かたい本」

本というと紙でできたものを連想するけれど、ちょっと重めのどっしりしたものがいいな。ということで気高木工さんにお願いして、木の板を2枚と蝶番を用意してもらいました。子どもたちはこれが本になるの?という感じでしたが、まずやすりをかけて表面のざらざらをとりツルツルにします。そして、後からぬる絵の具の発色をよくするために最初に白で裏表中を塗ります。そこから初めてのアクリル絵の具を使って描いていきます。鹿野芸術祭はあまり予算がないので「赤、青、黄、黒、白」の絵の具しかありません。みんなのパレットに絵の具を置いていきます。さあ、ここからは一気に描こう。乾きが早いからね!みんなのおうちの人には、絵の具が服についてびっくりした方もおられるかもしれません。ごめんね。パレットの絵の具が落ちにくく、放課後に先生は大変だったかもしれません、ごめんね。

でもみんなの集中力のすごいこと!飽きてどこかに行っちゃう子は一人もいなくて。それぞれが自分の作品にしっかり取り組んでくれて、すごく嬉しかったです。言葉を頼りに下書きもなく絵を描き始める。大人の中にはそんなの怖くてできないよって人が、ほとんどです。中には、一度完成させた作品をまた全部塗りつぶして、さらに描いた子もいました。

出来上がった本は鹿野芸術祭期間中に、城山の見晴らし台のところに作った本棚に展示をしました。みんな、見にきてくれたかな?ひとつひとつの本が、本の中に収まりきらないくらいの世界観を持っていて、とっても良かったよ。私は小さな森の中で図書館司書になったような気分で本を棚に並べていきました。ああ、楽しかった。素晴らしい時間を本当にありがとう。いつか大人になった時、この時間を片隅に思い出してくれたら嬉しいよ。また遊ぼうね。

文章:ひやまちさと/写真(1,9,10枚目):青木幸太

|主 催|鹿野芸術祭実行委員会、
西いなば工芸・アート村推進事業実行委員会
|共 催|鳥取県
|助 成|鳥取県
令和4年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業
令和4年度鳥取県工芸・アート村推進事業
エネルギア文化・スポーツ財団
ごうぎん文化振興財団助成事業

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