大絵巻絵画「Forest」
人間の心の中をテーマに描いた10mにもわたる大絵巻。2019年、鹿野で描き始められたこの作品は鳥取、東京、ノルウェーで展示と制作を繰り返しながらようやく今、完成の時を迎えます。人の心の表層から深層へと森の中を歩きながら深く入り込んでいく様を体験できる壮大な作品となっています。
2023/01/23 レポート
鹿野芸術祭2022会期中の11月20日(日)。藤田美希子「大絵巻絵画 Forest」を題材に対話型鑑賞を午前と夕方に行いました。案内役は蔵多優美こと私です。
「対話型鑑賞」という言葉を聞いたことの無い方が多いかもしれませんが、鳥取県では、令和7年春に開館する鳥取県立美術館に向けて対話型鑑賞ファシリテーターの養成講座やイベント実施などを積極的に行っており、全国の美術や教育、医療などの界隈でも注目されているものであると言えます。
私は、2021年夏ごろから対話型鑑賞ファシリテーターの勉強・実践を鳥取県内外でオンラインを中心に行い、2022年から対面での実施をギャラリーや教育現場などで行いながら、県立美術館以外の場での対話型鑑賞の可能性について模索しています。(ウェブマガジン『+〇++〇(トット)』では県立美術館開館に向けた対話型鑑賞に関するレポートを寄稿しているので興味ある方は是非こちらから)
そうした中で、鹿野芸術祭の繋がりを通して、ディレクターのひやまちさとさんを始めメンバーの皆さんと鑑賞に関して意見交換をしたり、作家の藤田美希子さんと青木幸太さんの作品を用いてオンラインや個展などで対話型鑑賞をさせていただくようになりました。体験していただいたり、情報を知ってくださる中で対話型鑑賞の可能性を見出していただき、久しぶりに現地での作品発表を行う鹿野芸術祭2022において、作品を見たり、参加者同志の対話をする機会を増やすため、「しかのひょうげん教室」プログラムの1つとしてイベントを実施することとなります。
今回は、「お子さん連れの方でも参加できること」「1時間の中で話が盛り上がりそうな作品が望ましい」といったことを考え、ゆっくり見れて大きくていろんな発見がありそうな作品として藤田美希子「大絵巻絵画 Forest」を題材に実施しました。
対話型鑑賞会の様子は、山本晶大さんがまとめた動画の(03:33)頃に、夕方の会で鑑賞している一部が見れるので、是非どうぞ。参加者は、初めて対話型鑑賞に触れた方やお子さん連れの方にもご参加いただき、午前と夕方それぞれの時間となりました。
私が担った案内役こと対話型鑑賞ファシリテーターというのは、作者や学芸員のような作品解説者ではなく、参加者同士の対話を促す役割です。参加者と一緒になって対話をすると、ただのお喋りをする会になりかねないため、作品の深いところへ参加者を道案内をするような気持ちを意識して臨むようにしています。私が対話型鑑賞の場を開く際、鑑賞前に参加者へお伝えしている中で「誰かの発言をよく聞いて、自分の中で咀嚼したり、ご自身と対話してみてください。きっと新しい何かが見えてくるはずです。」といった声かけをしています。案内役でも参加者でも「話をしっかり聞いて受けとめること」を意識して実施していくと対話型鑑賞は更に深まり、作品解説者も予想していなかった観点で作品の本質に辿り着く、なんてこともあるのです。
今回の鹿野芸術祭では、来場者同士で作品について話したり、展示会場にいる作家に声をかけ感想を伝えるような来場者をたくさん見かけました。私は、今回の鹿野芸術祭が初めての現地参加だったのですが、過去数年の鹿野芸術祭を通して、鹿野町の皆さんを始め何度も鹿野芸術祭を訪れる来場者の中で作品を鑑賞する姿勢が育っており、対話する場が自然と起こっているのだなと感じました。このような土台がある中で「対話型鑑賞」というプログラムを実施したことで、作品鑑賞をより意識する時間を生み出し、今までの鹿野芸術祭とは違った景色を作ることができたように思います。
対話型鑑賞会にご参加いただいた皆さま、鹿野芸術祭関係者の皆さま、ありがとうございました。作品と出会い、自分以外との他者と対話し、更に自分と対話していく時間の中で作品に対しての見方、考え方が深まることができれば、案内役としては幸いです。今後の鳥取県では、対話型鑑賞に触れていく人が少しずつ増えていくかと思います。その中で、作品を受け取る力・心、芸術に理解のある県民性が育っていくと良いなと芸術文化に携わる1人として望んでいます。
文章:蔵多優美/写真:青木幸太