鹿野採話集

岡山在住のアーティスト山本晶大さんが、鹿野にもまつわるさまざまなお話や物語を集めながら、そこから得たインスピレーションをもとにアート作品を制作するプロジェクト。去年、今年とヒアリングやフィールドワークをしながら素材を集めつつ、来年の鹿野芸術祭での発表に向けて着々と準備を進めています。


鹿野滞在コラム2

2021/12/23 レポート

『フィールドワークや資料を通して徐々に世界を広げていくということ』

 フィールドワークをやっている人は知らない人にも物怖じせず話しかけられて、どんな場所へも身軽に飛んでいく、私はそんなイメージをフィールドワークを主体にしている研究者やアーティストに対して抱いているのですが、実際にフィールドワークを主体にしている研究者やアーティストに会ってみると、人と話すのが苦手で家に引きこもっている方が好きという人もめずらしくありません。もちろんフィールドワークにも色々あるので、ずっと森や山の中でフィールドワークをしていてほとんど人と会っていないなんて人もいますが、色々な人にインタビューしながら調査を行っているのに、実は人と話すのは苦手という人もいるのです。

 かく言う私がどちらかというとそのタイプで、アーティストトークや講演などで多くの人の前で話したり、仕事や事務的なことを論理立てて話したりすることは得意でも、議論ではなく雑談や感情の共有を目的とした個人対個人のコミュニケーションはどちらかというと苦手で、必要がなければ自ら進んで他者と交流しに行くこともなく、特に予定のない日は大体家に引きこもっています。だったらなぜわざわざフィールドワークという手法を取り入れているのかと思われるかもしれませんが、むしろそういう引きこもりがちな性格だからこそ、私は自分の世界が閉じてしまわないようにアートやフィールドワークという窓を通して他者や社会との交流を図っています。

 前回(2021年10月)の鹿野町滞在の前半を図書館から借りてきた資料などの読み込みや地図の制作にあてたのも、目的を定めずにただぶらぶらと町の中を歩いて知らない人に声をかけながら情報を集めていくという手法をとることが私の性質上難しいので、まず知識を得て気になる点を明確にしていき、それをとっかかりにして交流の幅を広げていく必要があったという背景があります。また、私はかなりの方向音痴なのでGoogle mapのナビなどを使わないと、見慣れた場所でない限りほぼ確実に道に迷い、自分が今どこにいるのか分からなくなります。私はナビのおかげでなんとか生活できているようなものですが、ナビ任せで歩いていると地理が全然頭に入ってこないため余計に道を覚えられません。なので鹿野町の歴史や文化と地理的背景を理解していくために、自分で地図を作って地理を頭の中に落とし込む必要がありました。

 こうして文章化してみると、私がフィールドワークに向いていないということばかりが際立ってしまいますが、資料から得た情報を頼りに歩き回って人から話を伺ったりしていると、無味乾燥だった資料の情報が臨場感を持って感じられるようになったり、逆に今までただなんとなく眺めていた景色が資料の情報と結びついて全く違う意味を持って見えてきたり、鵜呑みにしていた資料の情報や他者からの話に整合性のとれないところが出てきてより深い知識の沼が見えてきたりなど、フィールドワークを通して刺激的な経験をすることも多く、なんだかんだ楽しいのです。

(近所で農作業中の方にお話を伺いました)

『鹿野滞在中のこと』

 来年(2022年)の鹿野芸術祭で予定している展示のネタバレになるようなことは書けないので、鹿野滞在中の話をどこまで書いていいのか悩ましいところですが、滞在後半には自作した地図を片手に鹿野町を歩き回り、私のような見慣れない顔の若者が通りかかりに声をかけても怪訝な顔をせずに快く質問に答えてくださる方が多く、鹿野町の人々の物腰の柔らかさに大変助けられました。中には話しているうちに「こんなことくらいでしか協力できないけど」と言いながら、育てている野菜を沢山くださる方もいたりしてとてもありがたかったです。

 また、大工町の公民館で行われているサロンで以前の鹿野町城下町周辺のことをお聞きできたり、小鷲河地区や勝谷地区の方、鹿野町郷土文化研究会の方々などから色々なお話をお伺いすることができました。お話をしてくださった方々本当にありがとうございます。

 まだコロナ禍の中での滞在だったので、滞在前にPCR検査を受けてきたとはいえ、人と会うことに普段以上に神経を使い、特に知らない人に声をかけて警戒されないかなど心配することも多くなかなか大変でしたが、多くの方々のおかげで来年の制作に向けた滞在調査をすることができました。

(お散歩中の方とちょっとしたおしゃべりから知り得ることも)

 滞在中に鷲峰山にも登ってみたいと思っていましたが、登山予定だった日の天気がちょっと微妙だったので急遽予定を変更し、代わりに法師ヶ滝と茂宇気神社を見てきました。

 法師ヶ滝への道の途中にかかっている丸太橋は表面が苔でヌメっていてとても滑りやすく、転んで落ちてしまわないかとヒヤヒヤしながらへっぴり腰で渡り、そうしてたどり着いた法師ヶ滝は美しかったのですが、滝の右側の斜面が崩れて以前とは景色が変わってしまっているとのことでした。

 尾道の斜面地で鍛えられているためか、きついと言われていた茂宇気神社の階段はちょっと息が上がっただけで意外と平気でした。志加奴神社にもあった扇型の石が茂宇気神社にも同じようにあり、他ではこのような石が神社の社の前に置いてあるのを見たことがないので、どういう由来で扇型の石を置くようになったのか、どのくらいの地域まで同じ風習があるのか、今回のテーマとは関係ありませんが気になるところです。

 鹿野で猟をしている方から「熊が出るから熊鈴はちゃんと付けておいた方がいい」と言われて、山を散歩中に何度も猪と至近距離で遭遇した経験のある私は忠告を真摯に受け止めてホームセンターへ初めて熊鈴を買いに行きました。一人で初めての山に登るのは危険なので、案内をしてくださる方を募集し、その方と話しながら一緒に歩いていたため、熊鈴がなくても騒がしい私たちが熊に襲われることはなかったかもしれませんが、あるとやっぱり安心感がありますね。鹿野町内の古道を辿っていると一人で雑木林の中をおそるおそる歩いていくこともあるので、熊鈴はフィールドワーク中の必須アイテムの一つになりました。

 今回登ることができなかった鷲峰山にもまた折を見て登ってみたいです。

文章:山本晶大/写真:青木幸太

鹿野芸術祭は3years Program。

鹿野芸術祭 2020→2022は「鳥取夜景」「鹿野採話集」を中心に 3年をかけて作品を制作し、発表していくプログラムです。
鳥取のさまざまな場所でフィールドワークしながらリサーチを重ねた 一年目。二年目となる今年はワークショップを中心にみなさんと さまざまな作品づくりを進め、そして来年、これまでの集大成として 発表の場所を作ります。
「いまアートを通じて人と人とがどうつながるか」その新しい答えを、 参加するみなさんといっしょに見つけながら、作っていきたいと考えています。

鹿野芸術祭は3years Program。

2020年度サイトへ

|主 催|鹿野芸術祭実行委員会、
西いなば工芸・アート村推進事業実行委員会
|共 催|鳥取県
令和3年度文化庁 文化芸術創造拠点形成事業、令和3年度鳥取県工芸・アート村推進事業
|助 成|公益財団法人 エネルギア・文化スポーツ財団

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