鳥取夜景
画家 藤田美希子さんが鳥取のさまざまな場所を巡りながら、夜景を描いていくプロジェクト。毎月一回、ウェブや芸術祭レターを通じて発表した昨年の活動を経て、今年はコピーライターのwakrucaさんが参加。その絵に文章をつけて本にしていきます。果たしてどのような作品へと変化していくのか乞うご期待です。
2022/01/19 レポート
画家 藤田美希子さんが昨年一年をかけて鳥取の夜景を描いてきた7つの絵。このシリーズができあがったとき、彼女の頭の中にはこの絵を使って一冊の本を作りたいという想いがありました。ちょうどこの一年を通して、この絵についてインタビューしてくれたコピーライターのwakrucaさんのことが頭に浮かびました。「そうだ、wakrucaさんに声をかけてみよう」という彼女の思いつきから、この本づくりのプロジェクトはスタートしました。
「いいよ」とwakrucaさんは快諾してくれました。彼は藤田さんの絵を見ているとその絵の中にある物語が聞こえてくるような気がしました。その物語に耳を傾けながら、彼はお話を書き始めました。書き進めながら、彼は7篇の物語は、それぞれがひとつの物語として完結していて、かつそれぞれにつながりがあって全体でもひとつの小説になるようなものにしようと思いました。
wakrucaさんはひとつの物語ができると藤田さんに読んでもらい、ふたりであれこれ話しながらまた次の話を書いていく。そのことを繰り返しながら約半年という時間をかけて、ようやく現実と空想の間を行き来するような不思議な物語が完成しました。
小説とともに藤田さんがさらに絵に加筆をして両方ともに完成。しかしまだ表紙をつくるという課題が残っていました。はじめは藤田さんに表紙の絵を描いてみてもらいましたがなんだかしっくり来ず、素材が和紙だったので藍で染めてみようということになりました。しかし実際に染めたところ、なぜか和紙は緑色に染まってしまい、しかも和紙が溶けて破れはじめたのでこれも断念。悩んだ末に、ふたりは本づくりワークショップの講師をお願いしている和紙工房「かみんぐさじ」さんに相談することにしました。
「かみんぐさじ」の担当 阿久津さんは丁寧に話を聞いてくださり、では染めの作業もこちらでやりましょう、ということになりました。最終的に表紙は「夜の闇を表す青色」にすることで話がまとまりました。
和紙工房には粉末の染料はありましたが、染めの専門知識があるわけではないので、阿久津さんは細かなグラムを調整しつつ試行錯誤しながら藤田さんとwakrucaさんが求める青色を作り続けてくれました。何度も打ち合わせを重ね、試し初めを何度もしながら理想の青色を作っていきました。
そして最終的には一度染めて乾かしたものにさらに重ね初めをして2色の青い色が層を作るデザインに決定。どこか鳥取砂丘の風景をイメージさせるような美しい表紙ができあがりました。
そしていよいよワークショップ当日。佐治和紙に印刷されたwakrucaさんの物語、藤田さんが一年かけて描いた鳥取の夜景、そしてあの表紙がこの日初めてそろいました。参加者のひとりひとりが青い表紙に「鳥取夜景」というタイトルを刷り、物語を一ページ一ページ束ねて針と糸で縫い、最後に藤田さんの絵を貼られました。ここでようやく物語と絵がひとつにつながり、表紙とタイトルが付いて、世界に一つしかない「鳥取夜景」という本が誕生しました。藤田さんが絵を描き始めたときから数えると約2年の時間を費やして生まれたこの本。その一冊が生まれるのには実はさまざまな人の想いや工夫や試行錯誤があったのでした。
文章:wakruca/写真:青木幸太、鹿野芸術祭実行委員会
鹿野芸術祭 2020→2022は「鳥取夜景」「鹿野採話集」を中心に 3年をかけて作品を制作し、発表していくプログラムです。
鳥取のさまざまな場所でフィールドワークしながらリサーチを重ねた 一年目。二年目となる今年はワークショップを中心にみなさんと さまざまな作品づくりを進め、そして来年、これまでの集大成として 発表の場所を作ります。
「いまアートを通じて人と人とがどうつながるか」その新しい答えを、 参加するみなさんといっしょに見つけながら、作っていきたいと考えています。